営業の現場では、新規開拓から顧客フォロー、契約まで多種多様な業務が同時進行で動いていることが少なくありません。そのため、どの商談がどこまで進んでいるのか、次に何をすればよいのかを見失いやすいという課題がしばしば発生します。
フレームワークを活用すると、この複雑な営業プロセスを明確なステップに分解できるため、全体像を捉えやすくなるだけでなく、各段階で起こりがちな失敗や抜け漏れを防ぎやすくなります。また、社内で共有しやすい“共通言語”となるため、チーム全体で取り組む際にも効果を発揮します。
本稿では、営業の一連の流れを「7ステップ」に区切ったフレームワークとして整理し、ステップごとに押さえておきたいポイントや成功のカギを解説します。新規顧客のリード獲得から成約後のフォローアップまで、体系的に見渡すことで、より質の高い商談を実現するヒントとしてお役立てください。

ステップ1 : リード獲得(Lead Generation)
潜在顧客を発掘する多様なチャネル
新規顧客を探すうえでは、見込み客となりそうな相手が集まりやすいチャネルを見極めることが不可欠です。展示会やウェビナー、SNS・ウェブ広告のほか、業界専門誌への広告掲載や顧客からの紹介など、意外なところから有望なリードが生まれることもしばしばあります。自社の製品・サービスがどんな課題を解決するのかをまず整理し、それに合ったターゲットが集まる場やメディアを優先的に選ぶのが効率的です。
また、チャネルを増やしすぎると、担当者が対応しきれず混乱を招く場合もあるため、「どんな顧客に対して、何をアピールしたいか」を具体的にイメージしたうえで最適な方法を選びましょう。たとえば、BtoB商材なら展示会やホワイトペーパー配布、LinkedInなどのプラットフォームが有効かもしれませんし、BtoCや小規模事業主向けならInstagramやYouTubeなどのSNSが注目度を高める手段になり得ます。こうしてチャネル戦略を明確化すると、獲得できるリードの“質”や“温度感”が段違いに向上します。
SNSを活用したソーシャルセリングに関しては、以下の記事でも詳しく解説しています。
初期情報の整理と優先度の見極め
リードをどうやって集めるかだけでなく、“集めた後にどう扱うか”も案件化の成否を大きく左右します。一度に大量のリードを獲得しても、その中には「単なる情報収集で問い合わせただけ」「今すぐ導入したいが予算が不透明」といったさまざまな状況の見込み客が混在しているものです。そこで必要なのが、初期の段階で情報をきちんと整理し、優先度を見極めるプロセスです。

具体的には、リードごとに名前・企業情報・業種・導入の目安時期・想定予算などを記録し、ある程度のスコアリングやカテゴリ分けを行う方法が考えられます。
たとえば、「今期中に具体的な導入計画を立てたい」と明確に言っている相手なら高優先度とみなし、早急にアプローチを進めるべきでしょう。一方で「いずれは検討したいが、いつになるかはわからない」という相手の場合は、無理に商談日程を詰めようとするより、定期的な情報提供を続けて育成(ナーチャリング)するほうが、あとで自然に案件化する可能性が高まります。
ここを曖昧にしてしまうと、せっかく獲得したリードの興味が薄れたり、他社に流れてしまったりする機会損失も起こりやすくなります。特にチームで多くのリードを取り扱う場合は、担当の割り振りや優先度の判断をルール化し、誰がいつどこまでフォローしたかを共有する仕組みを整えると安心です。最終的に“案件化”へ至るまでのプロセスを可視化することで、リード獲得から商談フェーズへの移行をスムーズに進められるでしょう。
ステップ2 :アプローチ(Approach)
最初の接点を“シーン”で設計する
リードを獲得してから、顧客との初めてのやり取りが始まる場面は、営業全体の流れを左右します。ここで疎かにすると、その後のニーズ把握や提案ステップでスムーズに進めなくなってしまうため、接点を作る“シーン”をきちんと想定することが大切です。
たとえば、展示会で名刺を交換した相手には「あのブースでお話しした○○の件、その後いかがでしょうか?」と開始し、相手が実際に課題を意識していることを思い出してもらうのが効果的です。ウェブやSNSからの問い合わせなら、「○○についての資料ダウンロードありがとうございます。もし詳しくお話できればうれしいのですが、最近こんな事例も出てきました…」など、新しい情報をひとつ添えると、相手が「あ、この人は自分に関心を持ってくれている」と感じて次のステップへ移りやすいでしょう。
アプローチ段階の“仕掛け”は、小さな気配りの積み重ねです。簡単なことですが、ここを雑にすると「ただのセールス電話だな」と思われ、その先のヒアリングや提案を聞いてもらえずに終わる可能性があります。
相手の温度感に合わせてテンポを変える

相手が熱量高く反応してくれるなら、一気にニーズヒアリングや提案の準備へ駆け上がるべきです。
メールの返信が早い、電話でも積極的に質問が出るという相手には、こちらも間髪入れず次回打ち合わせの日時を提案し、商談入りするほうが結果が出やすいでしょう。
逆に、反応が薄かったり「いまはタイミングが…」と言われたりした場合は、長期的に育てる心構えが必要です。焦って1週間で何度も連絡すると嫌がられるかもしれません。月に1度程度の情報提供や、SNSで軽いコメントをするなど、距離感を保ちつつ存在を思い出してもらう施策が大事。相手の温度に合わせ、こちらの“押し”の強さやペースを柔軟に変えるという考え方が、アプローチ成功のカギとなります。
ステップ3 : ニーズ・課題の明確化(Needs Identification)
ヒアリングの“仕掛け”を体系化する
多くの営業担当者が口にするのは「お客さんが本当の悩みを言ってくれない」という嘆き。しかし、相手も初対面で自社の問題をスラスラ話すわけではありません。そこで必要なのが体系的なヒアリングの仕掛けです。
たとえば、SPIN(Situation/Problem/Implication/Need-payoff)やコンサル型質問集などをベースに、「現状を把握し→問題点を探り→その影響度を顕在化→解決を願う気持ちを導く」というステップを踏んでいく。これを自分流にアレンジしておくと、どんな相手でも会話を誘導しやすくなります。
さらに、上手なヒアリングほど“質問だらけ”にならないのが特徴。相手が答えやすい流れを作り、小さな共感を挟みながら話を進めるので、雑談の延長のような自然な空気感で悩みを聞き出せるのです。
SPIN話法については、こちらの記事でも解説しています。合わせてご一読ください。
潜在的な課題に気づかせるための“キラーフレーズ”
「いま困っていることは?」と聞いても、相手がすぐ答えられるとは限りません。ときには、
- 「同業界のA社では、○○の削減に成功した例があるそうですよ。御社でも似た形は考えられますか?」
- 「最近の××トレンドを踏まえると、現状のやり方だと少しリスクが高くないですか?」
など、具体例や業界ニュースを振りつつ相手に“そういえばうちも…”と思わせるきっかけを作るのが効果的です。相手が「じつはその部分が気になっていて…」と話を始めれば、ニーズの“顕在化”に成功したと言えるでしょう。この段階で“課題を共有する”という感覚が芽生えると、後の提案がよりスムーズになります。
ステップ4 : 提案・プレゼンテーション(Proposal)
相手の“理想像”に基づくシナリオ設計
顧客がどんな理想像を思い描いているのかを把握しているなら、そのゴールを実現するための最短ルートを示すように提案を組み立てると効果的です。「現状→課題→解決策→具体的効果→導入後の未来」という流れを一本のストーリーにし、相手が“自分事”としてイメージしやすい見せ方を工夫します。

ここで専門用語を多用しても相手は疲れるだけです。たとえば、IT系の提案でも技術的な裏側ばかりを強調するのではなく、「導入すると○○時間/日が節約でき、コストは年に××万円削減になります」と端的に成果を見せたほうが、経営層や意思決定者に響きやすいでしょう。
ビジュアルサポートと対話
もし可能であれば、デモ動画や簡易シミュレーションを使って視覚的に訴えると説得力が段違いです。見積もりやシステム構成をテキストだけで説明するよりも、画面共有や画像を交えて「あ、この工程が省けるのね」と相手に体感してもらうと、納得感が高まります。
また、プレゼン中でも「ここまでいかがですか?」と小さく確認を挟んで、相手の表情を見ながらテンポを調整すると、相手の理解度を置き去りにしないまま提案が進みます。提案とは一方向の“説得”ではなく、二人三脚で“納得”を作る作業という意識を持ちたいところです。
ステップ5 : 反論処理・疑問への対応(Objection Handling)
相手の不安や懸念を聞き取る“聞き上手”なアプローチ
反論に対する対応というと、営業が「いかに切り返すか」を考えがちですが、実は“相手が懸念していることをじっくり聞く”時間を作ることが先決です。時間が許すなら、「ご不安な点は他にありませんか?」と敢えて聞き出しておき、すべて出し切ってもらうと良いでしょう。
誰しも大きな投資やシステム導入には慎重になるものです。相手の不安を最後まで吐き出させ、それをひとつひとつ整理して解決策を提示する流れができれば、顧客の抵抗感は大幅に和らぎます。
論理と感情のバランス
「価格が高い」「時間がかかりそう」といった論理的な反論が出た場合は、データや事例で説明しやすい反面、顧客の感情的な抵抗感が潜んでいるケースも無視できません。

上司への説明責任や、失敗した際のリスクが怖い、という内面をケアするために、「万が一、導入後にトラブルが起きても私たちが最優先で対応します。実際、24時間のサポート窓口を用意していて…」と安心材料を用意しておくと、相手が「そこまで言ってくれるなら大丈夫か」と納得することがあります。
反論処理は“言葉の剣戟”ではなく、“心の懸念を解消する”という観点で捉えると、むしろ顧客との結びつきが強まる結果に繋がりやすいでしょう。
ステップ6: クロージングと契約の最終合意(Closing)
タイミングを見誤らない合意への誘導
商談がある程度進んだら、「そろそろ決めましょうか?」と切り出すタイミングを見計らわなければなりません。
これを躊躇してズルズルと先送りにする営業パーソンは多いのですが、相手も「どうすればいいのか不明」な状態で放置されると導入意欲が冷めてしまいがち。そこで、一度相手と導入スケジュールを想定し、「では、○日までにご判断いただけると、翌月から体制が整います」といった具体的案を提示するのが有効です。
契約直前で浮上する“最後の不安”への対処
決裁者の承認、社内での稟議プロセス、協力会社への説明など、最後の最後で不安要素が出ることも珍しくありません。たとえば「経理部長の了承が必要なんですが、最近忙しくて…」という声があれば、経理部長に向けたメリットまとめ資料を急遽作成するといったサポートを申し出るといいでしょう。クロージングは二人三脚で乗り越えるイメージを持つことで、相手の社内手続きもスムーズに進められます。
クロージングのテクニックについては、下記の記事をご参照ください。
ステップ7 : フォローアップと継続提案(Follow-up)
アフターサポートこそ“次の案件”の母体
契約が完了して導入が始まった時期が、実は営業としての成長機会でもあります。顧客の担当者が実際に使い始めると、思わぬ不便が見つかったり、もっとこうしたいという新しいアイデアが出たりすることが普通にあるため、ここで丁寧にフォローすると顧客満足度が一気に上昇します。満足度が高い顧客は「他部署でも同じ仕組みを導入したい」「知人が同じ課題を抱えている」といった紹介やリピートへ繋がりやすいのです。
定期的なコミュニケーションの習慣化
フォローアップを怠ると、顧客がいつの間にか競合他社のサービスを導入していた…などという事態にもなりかねません。月に一度の定例連絡、あるいは四半期に一度のオンラインセッションなど、継続的に顔を合わせる機会を設定することで、顧客との関係を熟成できるでしょう。
こうして繋がりを保つと、顧客から「実は今度○○が必要で…」と相談が舞い込み、追加契約やバージョンアップが自然に発生することがあるのです。案件は成約して終わりではなく、長期的に育てていく資産として捉える姿勢が、自社の安定収益と顧客の満足度向上に直結します。
まとめ:フレームワークで俯瞰し、営業を進化させる
リード獲得からアプローチ、ニーズ把握、提案、反論処理、クロージング、そして導入後のフォローアップまでを“7ステップ”として捉えると、営業活動の全体像がすっきりと見えやすくなります。各ステップにはそれぞれ“目的”と“やるべきこと”が明確にあり、曖昧に進めると失注や関係性の崩れを起こしやすいポイントでもあります。
フレームワークを使うことのメリットは、個人ごとに感覚で商談を進めるのではなく、共通言語と手順を持てることにあります。チーム内でステップごとの成功例・失敗例を共有し合えば、どの段階でつまずいたかを再現性のある形で分析できるでしょう。その積み重ねが、受注率や顧客満足度の向上に直結します。
読者の皆さんが日々の営業現場で抱えている課題――たとえば、「初回アプローチで返事が来ない」「提案までは行くけれど反論処理で崩れる」「契約後のフォローが疎かで追加契約を取りこぼす」――これらを7ステップに照らし合わせることで、どこが弱点かを明確に把握できるはずです。ぜひ本稿の内容を参考に、自社の営業プロセスを見直し、一つひとつのステップで確実に相手の心をつかみ、案件を円滑に進めていけるスタイルを確立してみてください。